ロング・ショートの語源と俗説のウソ

きほんてきなはなし(雑談含む)

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嘘,ネットの嘘

ロングショート(Long、Short)の語源

株式や外国為替証拠金取引(FX)のトレーダーの会話では、みんな売りとか買いとか言わずに、Lとかロングとか、Sとかショートとかいう言葉が飛び交います。
何を今更と思うかもしれませんが、証券取引初めましての人には、わけがわからないよ状態だと思いますので、ロングとショートの語源からちょっと研究してみました。

ある英和辞典のロングとショートの訳

例によって高校生が標準的に使っている英和辞書から意味を引いてみます。

“long  形容詞(11番めの意味で)《証券・商》(値上げを見込んで)・・・の買いに立っている、強気の[on,about]”
“short 形容詞(11番めの意味で)⦅証券・商品・株式仲買人などが⦆空売りする”

さすが天才英和辞書です。
ロングショートは日本で派生した言葉ではなく、英語で普通に使われている言葉だということはわかります。
しかし、「空売りする」と訳したらそれは動詞だと思います。
longと同じように「売りに立っている、弱気の」と訳すなりちゃんとやってください。

オックスフォード英英辞典のロングとショートの訳

現代技術というのは便利なもので、ある程度権威のある辞典がオンラインで使えたりします。
オックスフォード英英辞典もそのひとつです。
紀伊國屋書店とかでよく見る買うとバカ高いあのカラフルな辞典です。
ただ、オックスフォード英英辞典でも正確な語源はわかりません。

”long Finance
(of shares, bonds, or other assets) bought in advance, with the expectation of a rise in price.”
「値上がりを期待して前もって買う」

“short Stock Market (of stocks or other securities or commodities) sold in advance of being acquired, with reliance on the price falling so that a profit can be made.”
「値下がりによって得られる利益を得るための、株式やその他の証券・商品の取得前の売却」

とか書いてますね。

日本に蔓延する俗説

ロングショートの売り買いの語源については、あまり学術的な語源の考察というのはされていないみたいです。
悔しいことに検索上位サイトに出てくる解説では、結構な割合で、

「値上がりは時間がかかるからロング
 落ちるのは早いからショート」
やる夫,キリッ,AA

と不確かなことを書いています。
バブル崩壊を体験している日本人的な感覚だなあと思います。
どことなく落語要素が入っていますし、時間の長い短いではないんじゃないかと。
そもそも上がる時も一瞬だったりしますし、下がる時もダラ下げだったりします。
“shortage”の対義語を探して”longing”を取り出すと「切望する」という訳語があります。
この関係で時間の長さが出てきてしまったんでしょうね。
そして極めて情緒的な感覚で、先ほどの
「値上がりには時間がかかるんでロング、値下がりはなんかわからんけどショート」
とかやってしまうのです。
“shortage”の対義語は”longage(economic, informal)”です。
比較的最近生まれた新しい言葉です。

英語話者のコミュニティ探訪

英語話者のサイトで語源を調べても検索上位サイトが書くような値上がりまでの時間は長いからロングなどというソースは現れてきません。

嘘,竜宮レナ,ひぐらしのなく頃に


オッケー!グーグル!


いろいろ探訪して見つけたのは、「売りポジションという意味での”Short”は1850年代のアメリカで生じたのではないか(俗語)」というものでした。
証券取引的意味のロングショートの言葉の成り立ちを考えると、
「経済誌上で空売りを説明するための”Shortage”という言葉から、”Long”より先に、空売りを意味する”Short”が爆誕した。」
と言うのが真相のようです。
当時は空売りは”Short measure”と呼ばれていました。
カテゴリ直下には、熊猟師が熊の毛皮を狩猟前に売ったことから「ベア」は売りなんだとか、興味深い話が続きます。
“Short”の対義語をとって”Long”を買いポジションとした経緯もありました。

まとめ

いろいろ見てきましたが、まっとうにロングショートの中核的な意味を考えたほうがよさそうです。
ロングは、長いとか大きいとかたくさんとか言う意味で、ショートは、短い、小さい、少ないとかいう意味です。
たくさん持っている状態にするという意味から転じて「買いの状態」を表すのに”Long”、少ない状態にすると言う意味から転じて「売りの状態」を表すのに”Short”を使う。
この方が腑に落ちます。
外国人から言うと、何で語源をわざわざ考える必要があるのかあまりわからない、というところでしょうか。

ともあれ、

「値上がりは時間がかかるからロング、値下がりはあっという間だからショートっていうんだぜ!」

は恥ずかしいからやめましょう。赤くしてやる。



って誰がショートやねん!

ちなみに、2021年5月現在、当ブログの内容を書き写して多少改変を加え、上位表示させている情報ブログがあります。値動きの性質にそのような側面があることは否定しませんが、値上がり値下がりの速さ遅さと、英語におけるロング・ショート用例と語源に論理的つながりはないことを補足させていただきます。


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